◆主将副主将コンビ、栄口くん誕生日
「栄口ってぜんぜん臆面ないよなあ」
「へ?」
田島と水谷の大声をバックに、ぼそりとした花井のつぶやきを拾って、栄口はきょとんとした。
日曜日だけど当たり前のように練習日で、そして誕生日だった。
先月の、勉強会のはずだった三橋の誕生日会(兼巣山と花井の誕生祝い)があったからみんな気を使ってくれたのか、
部活の帰り、いつものコンビニではなく全員でハンバーガーショップに寄ったのだ。
ひとりひとりが、ささやかなプレゼントという名目でメニューを頼んでくれたので、栄口自身は財布を開かなくとも満腹になってしまった。
休日のファーストフード店という状況も気にしない鉄面皮の4番が、
前回と同じく大声で「ハッピーバースデー」を歌うことを主張したが、こればかりは全員の反対にあって却下された。
それでも図体の小さくない高校生が10人も寄って集まって、口々に「おめでとー」を言い合っているのだ、
周りの家族連れやカップルからはちらちらくすくすと注目を浴びていた。
そのことに、この、良くも悪くも人目を気にする主将は神経をすり減らしてしまったのだろうか。
「ああ、ごめん、俺らやっぱうるさ過ぎかな?」
副主将なんだからちょっとは注意してくれ、という苦言だったのかと思って、沖に買ってもらったストロベリーシェイクのカップを置いて、
隣で田島に何やらがなっている阿部をなだめようと腰を浮かしかけたら、「え、や、わりい、そういうことじゃねえよ」と花井は慌てて打ち消した。
「そーじゃなくてさ、おめでとうとか言われても、フツーにありがとうって返すじゃん」
「え。だってほかにどー返せばいいの?」
「あーいや、それはそーなんだけどさ」
聞き返すと、花井は口ごもってポテトをかじった。
その横顔を眺めながらふっと思い出す、そういえば花井は、あの誕生会のとき、ひたすらに照れくさがっていたっけ。
巣山のあとで、もう1度ろうそくをつけて歌を歌うんだと主張する周囲に向かって、
むきになっていると言ってもいいくらいに「俺はいいって」を繰り返していた。
それを思い出して栄口は思わず笑った。
「花井はなんてーか、意識し過ぎだよね」
「は?」
「別にいーんだけどさ。でもおめでとうって言われたらありがとうって返そうよ、フツーに」
そう言うと、怪訝そうだった花井がちょっと決まり悪そうな顔になった。
「だってこの年になって誕生日おめでとうって、とか思うじゃん」
「そーかな」
「あ、イヤ別に、うれしくねえとかそーゆんじゃないけどさ」
「わかってるよ」
言い訳がましく付け加えられた言葉に、また笑う。
あのときの恥ずかしくて居たたまれなさそうだった花井を見ていれば、誰も本気で嫌がっているだなんて思わない。
「でも俺はなるべくありがとうって言いたいんだよね」
「ああ、だから、そういうところが臆面ないっていうかさ。いい意味で」
「あはは、いい意味でね」
ありがと、と栄口が言ってみると、「今のはちょっとイヤミっぽいわ」と花井が苦笑いをこぼした。
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