◆天然阿部くん増殖計画その2
ボタンをぜんぶはずしたシャツを、彼女の肩からどける。
むき出しになった薄い肩を撫でて思わずつぶやいた。
「……お前、色しっろいよなあ」
自分の手の甲の色なんて普段は気にもしないのに、彼女の肌とのコントラストで初めて日に焼けていることに気づくのだ。
それにボールやバットになじんだ無骨な手のひらには、その白い肌はやたらとなめらかに感じる。
「やらけぇし」
わき腹の辺りまでそっと手を動かした。
くすぐったいのか彼女の体がひくんと揺れる。
あばら骨の感覚はちゃんとあるのに、筋肉のごつごつした感じがまったくしない。
当然だけど、部室での着替え中に見慣れた男の胴体とはぜんぜん違う。
そのことに改めて感嘆に似た気持ちを抱く。
「……あっ、あべ、くんっ」
なんだかせっぱつまった声で名前を呼ばれて彼女の顔を見ると、近いところで合わさった視線はすぐにはずされてしまった。
彼女の目はやりどころに困ったようにうろうろして、結局下を向いてしまう。
「なに?」
「え、あ、あの……」
うつむいた彼女の顔は、首筋の辺りまで赤くなっていた。
なんとなく触りたくなってそこに鼻先を押しつけると、不意を突いたらしく彼女は「ひゃっ」とまぬけな声を上げた。
「なんつー声出してんの」
「っ、だ、だって」
「つーかなんか言いかけてなかった?」
「う……」
なに、と促してみても、彼女は「あの」とか「その」とかを繰り返すばかりで時間がかかりそうだったので、
待ち時間を有効に使おうと背中のホックを探った。
ぷつんとそれをはずして肩ひもに手をかけると、「あ、あああ阿部くんっ」と彼女が慌てふためいた声を出した。
なんだかそれが制止のように聞こえたので一旦手を止めて彼女の顔を見た。
「んだよ」
覗き込んだ彼女の顔には今にも泣き出しそうな表情が浮かんでいた。
その表情にふと思い立って、所在なさそうだった彼女の手を取る。
熱を帯びた首筋とはうって変わって、握った小さな手のひらはひんやりと冷たかった。
軽く溜め息をつきたくなる温度だ。
「……お前さ。そんなに俺とやるのイヤ?」
「っ、え 」
「なんかいっつも無理やり襲ってるよーな気になんだけど」
「え、や、ちがう、けど……っ」
「そー?ならいーけど」
そう言いながら、押し倒そうと彼女のほうへ体重をかける。
そのとき「で、でもっ」と思い切ったような声が飛び出したので動きを止めた。
「でも?」
「……は、恥ずかしく、て」
「は?何が?」
「……っぜんぶが!」
「ぜんぶ?」
んなこと言ったらなんもできねえじゃんと言うと、彼女は一瞬声が出なくなったように口をぱくぱくさせた。
まだ服を脱がせただけで大したこともしてないなのに、その目はすでに涙目になっている。
「……じゃ、じゃあせめて感想言うのやめて」
力ない声で、彼女は反論のようにそう言った。
「感想?俺そんなの言った?」
「……し、白いとか、やわらかいとかっ」
「ああ、なんだソレか」
彼女が示すところは理解できたが、その理由がわからない。
「なんで?」
「恥ずかしいんだってばっ」
「なんで。ホントのことなのに」
白くてやらかくて触んの気持ちいいんだもん、お前。
そう言うと彼女は再び声を失った。
かわりに真っ赤だった顔がさらに赤くなる。
おもしろくなってその頬に触れると、そこは手の冷たさからは想像できないくらいに熱を帯びていた。
「真っ赤」
タコみてえと言いながらその頬を撫でる。
彼女の目がちらりと自分をとらえたが、すぐにまた下を向いてしまった。
「……も、いいです」
「あそ?」
もういいと言うからもういいんだと思って彼女の肩をつかんで押し倒したのに、彼女は組み敷かれて心底驚いたという顔をした。
「え、や、阿部く、待って 」
「なに。もういいつったじゃん」
「ちがっ、今のは、そじゃなくて……っ」
「だめもー待ったなし」
自分を阻もうとする手をつかんで唇をふさいだ。
ねじ込んだ舌で口内を探ると、やっぱりそこは柔らかくて熱くて触れたところからとけていきそうで、こんなに気持ちいい。
絡ませた、いまだ冷たい彼女の指先にも熱が伝わるまで、強く強く愛する決意をする。
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