◆「気持ちいい」連呼し過ぎだと思ったので



「っ、た……!」
「あ、わり」

間近で彼女の声がして指の力を抜いた。

「へーき?」
「ん……」

彼女の返事は否定とも肯定ともとれるようなあいまいなものだったが、 覗き込んだ目は涙でゆらゆら揺れていて、あー痛かったんだなと理解する。
彼女の小さい顎は硬球とは違うのだ、力任せにつかめばそりゃいてぇよな、とちょっとは反省もしたが、
それでもどこか不満な気持ちになる。

「なあ、お前なんで逃げんの?」

そもそも彼女がじっとしていてくれれば、捕まえる必要だってないのだ。
それなのに彼女は、唇を合わせてそれより奥に侵入しようとするたびに、それを避けるみたいに顔をそむけようとする。
だから自分が、彼女の頭を抱き込んだり、首裏をおさえて動けないようにしたり、をしなければならなくなる。

「やなの?」
「え……」
「気持ちよくない?」

俺はすげー気持ちいーんだけど。

そう言うと、彼女はなぜか耳まで赤くなった。
よくこうも血の満ち引きをわかりやすく示せるものだ、とちょっと感心する。

「やならそー言えよ」
「ちが、そうじゃなくて……」
「じゃー何」

そう聞くと、彼女はふいと目をそらして下を向いた。
息が、もたなくて。
言い訳のように小さな声で説明する。

「息?」
「……苦しくなる、からっ」

その言葉を聞いてしばし回顧してみる。
あの程度の時間で呼吸が苦しくなるものだろうか。
よくわからなかった。
でも彼女は女だし運動も得意じゃないし、そういうものなのかもしれない。

「肺活量少ねえなあ」

もうちょい鍛えろよ、そう言いながら彼女の両方の頬を手で包み込む。
できるだけそっと。

「え、あべ、くん?」

うろたえた声を出す彼女の顔を上げさせる。

「俺はまだ全然ヨユーあるし、息」
「へ      
「窒息死させるかもとか、考えてたら集中できねえ」

そしてまた唇を重ねた。
そこで待ち受けている生温かい温度に、彼女のやわさも肺活量の乏しさも結局忘れて夢中になってしまうのだけれど。